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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)4号 判決

一 請求の原因1及び2の事実については、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決を取消すべき事由の存否について判断する。

商標の不使用取消審判請求における請求人の適格については、商標法になんらの規定も設けられていないが、右審判は、独立の職権を有する審判機関が司法手続に準ずる手続によつて審理判断するものであり、請求人において不使用商標の取消を求める法律上の利益を有しないときには、審判請求をすることができないというべきである。従つて、請求人は、当該不使用商標の取消につき利害関係を有する者に限られるといわねばならない。

ところで、原告が本件審判請求において取消を求める本件商標は、「VERA」の欧文字を横書きにして構成され、指定商品を第一七類「被服、布製身回品、寝具類」として登録されたものであることは、当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第四号証、第五号証の一ないし三、第六号証の一ないし六によれば、原告は、外衣・中衣・帽子・毛皮製衣服・身回品の製造及び卸売を業とする会社であるが、少なくとも昭和五一年一〇月以降、子供服について「VIVID Vera」の欧文字を横書きにした商標を付して販売してきたこと、本件商標の専用使用権者であるスカーヴス・バイ・ヴエラ・インコーパレイテイドは、同年一〇月二〇日原告に対し、原告の右商標使用を本件商標権の侵害行為に該当するとして即時中止するよう請求したこと、原告は昭和五二年六月二四日指定商品を「被服、寝具類」として「VIVID Vera」の商標出願をしたが、昭和五五年八月二六日本件商標と同一または類似の商標であつて、その指定商品と同一または類似の商品に使用するものである旨拒絶理由通知を受けたことが認められ、ほかに右認定を動かすに足りる証拠はない。

右の事実によれば、原告は本件商標が登録されているために、原告の使用する「VIVID Vera」の商標を登録することができないおそれがあり、かつ本件商標権者等に対し本件商標の侵害を理由に右商標の使用停止、製造物件の破棄、損害賠償等の義務を負うおそれがあるから、原告の右商標登録出願手続の帰趨の如何また使用停止等の義務を現に負担していると否とに拘らず、本件商標の不使用を理由に登録取消を求める法律上の利益を有するというべきである。

しかるに、審決が、原告が本件審判を請求するについての法律上の利害関係を有するものと認められないとしたことは、請求人の資格についての判断を誤つたもので違法といわなければならない。

次に、原告が、商標法第五〇条第一項の規定に基づき、昭和五二年六月三〇日被告を被請求人として、本件商標の登録の取消を求める審判の請求をし、その審判請求書の「請求の趣旨」には「本件商標の登録はその指定商品中『被服、寝具類』につきこれを取消す。」旨記載されていたこと、その後、原告は、昭和五三年二月八日、右「請求の趣旨」の記載中の「被服、寝具類」を「被服、布製身回品、寝具類」と補正する旨の手続補正書を提出して、不使用に基づく登録の取消を求める指定商品の一つとして新たに「布製身回品」を追加したことは、当事者間に争いがない。

右争いのない事実に徴すると、右補正の内容は、審判請求にかかる指定商品の範囲を拡大変更するものであるから、右補正は、商標法第五六条の規定によつて準用される特許法第一三一条第二項の規定にいう審判請求書についてその要旨を変更するものとして許されないものである。しかしながら、右補正が許されないからといつて、すでに適法にされている指定商品「被服、寝具類」につき本件商標の登録の取消を求める旨の本件審判の請求が不適法となるものとは解されない。この点、審決は、右補正をすることが許されないものと認めたのであるから、さらに進んで審判請求書中の当初の「請求の趣旨」の記載に即し、指定商品「被服、寝具類」について不使用の事実の存否などを審理して商標法第五〇条の規定に定める登録取消事由の有無を判断すべきものであつた。しかるに、審決は、右補正が許されないことから、ただちに本件審判請求自体も不適法となるものと誤つて判断し、かつ、商標法第五六条第一項の規定によつて準用される特許法第一三五条の規定を誤つて適用し、本件審判の請求を却下したものであり、明らかに違法であるから、取消を免れない。

よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。

〔編註〕 本件における事実関係は左のとおりである。

一 請求の原因

1 特許庁における手続の経緯

被告は、指定商品を第一七類「被服、布製身回品、寝具類」とする登録第九九八五八八号商標「VERA」(以下「本件商標」という。)の商標権者であるが、原告は、昭和五二年六月三〇日、特許庁に対し、商標法第五〇条第一項の規定に基づき被告を被請求人として、「本件商標の登録はその指定商品中『被服、寝具類』につきこれを取消す。」との商標登録取消の審判を請求(昭和五二年審判第八三一〇号事件)し、更に、その後原告は、昭和五三年二月八日付手続補正書によつて前記審判請求書中の「請求の趣旨」の記載を「第九九八五八八号登録商標の登録は指定商品『被服、布製身回品、寝具類』につきこれを取消す。」と補正したが、昭和五七年一〇月一五日、「本件審判の請求を却下する。」との審決がされ、その謄本は同年一二月一一日原告に送達された。

2 審決の理由の要旨

(一) 商標法第五〇条の規定する商標登録の取消審判は、商標登録を取消すことについて法律上の利害関係を有する者によつてのみ請求しうる。

ところで、原告は、本件商標の専用使用権者から、原告の使用する「VIVID Vera」の商標の使用中止を求められ、商標使用差止の法律上の措置をとるとの警告に接したのみで未だその法律上の措置をとられるに至つていないから、本件商標の取消を求めるにつき法律上正当な利益を有するものとすることができない。

従つて、原告は、本件審判を請求するについて法律上の利害関係を有するものと認められない。

(二) 原告は、「本件商標の登録はその指定商品中『被服、寝具類』につきこれを取消す。」との審決を求める旨申し立てたが、その後昭和五三年二月八日付手続補正書によつて不使用に基づく登録取消を求める指定商品として新たに「布製身回品」を追加し、「請求の趣旨」の記載を変更補正した。

商標法第五六条第一項によつて準用される特許法第一三一条第二項の規定によれば、審判の請求書の補正は、請求書の要旨を変更するものであつてはならないとされている。

しかして、商標法第五〇条の商標登録の取消審判にあつては、各指定商品についてその登録の取消を請求することができ(同条第一項)、他方、被請求人は、審判請求の登録前三年以内にその請求に係る指定商品のいずれかについて使用していることを証明する(同条第二項)のであるから、取消を請求する指定商品は、その審判については、審判請求時において特定されねばならないものであり、その後に拡大し、縮減し、又は変更することは、審判請求の要旨を変更するものと認められ、これをなしえないものといわなければならない。

従つて、本件審判請求は不適法であり、かつ、その補正をすることができないものであるから、商標法第五六条第一項の規定によつて準用される特許法第一三五条の規定により却下する。

3 審決の取消事由

(一) 原告は、昭和三八年五月に設立された会社であり、以来、被服、布製身回品、寝具類を製造販売してきたが、その間、少なくとも昭和五一年八月末ごろ以降は、右商品について「VIVID Vera」の商標(昭和五二年六月二四日商標登録出願)を使用してきたものである。

従つて、原告は、本件商標の登録の取消を請求するにつき利害関係を有するから、原告が右審判請求につき利害関係を有すると認められないことを理由に、本件審判を不適法として却下した審決は、違法であり取消されるべきである。

(二) 原告が昭和五三年二月八日付手続補正書によつて登録取消を求める指定商品として「布製身回品」を追加した補正を、商標法第五六条第一項によつて準用する特許法第一三一条第二項に違反し許されないものとしたならば、さらに進んで当初の審判請求書の「請求の趣旨」の内容に即し、指定商品「被服、寝具類」について、商標法第五〇条の規定に基づく登録取消事由の有無を判断すべきであつた。しかるに、審決は、右補正が許されないことをもつて、ただちに本件審判請求自体を不適法であると誤つて判断し、かつ、商標法第五六条第一項の規定によつて準用される特許法第一三五条の規定を誤つて適用し、本件審判請求を却下したものであるから、違法として取消を免れない。

二 被告の答弁及び主張

1 請求の原因1及び2の事実は認める。

2 同3の取消事由についての主張は争う。

審決の判断は、正当であつて審決には原告主張のような違法の点はない。

(一) 本件商標は、昭和四七年二月二九日に出願公告され、昭和四八年二月五日に登録されているものであつて、原告の引用する昭和五二年六月二四日商標登録出願に係る商標の選定時には、少なくとも同業者である原告の認識の対象になつていたものであるから、原告において本件商標を看過して右商標を選定出願しても、本件商標の取消を求めるにつき利害関係を有する者であるとは、いゝ難い。

(二) 商標法第五〇条第一項に規定する商標登録の取消審判を求めて、審判請求書を提出したのち、「請求の趣旨」に記載する指定商品の範囲を実質的に変更することは、一旦係属した審判事件の特定を害し、これを他の事件に流用することとなり、審判請求書の要旨を変更するものであるから、商標法第五六条第一項の規定によつて準用される特許法第一三一条第二項の規定により許されない。

そこで、本件審判請求書の「請求の趣旨」に記載する指定商品と右手続補正書の補正の内容に記載する指定商品についてみるに、本件審判請求書の請求の趣旨に記載する指定商品は「被服、寝具類」であるのに対し、右手続補正書の補正の内容に記載する指定商品は「被服、布製身回品、寝具類」であるから、右手続補正書の補正の内容に記載する指定商品の範囲が、本件審判請求書の請求の趣旨に記載する指定商品の範囲を実質的に変更するものであることは明らかである。

したがつて、右手続補正書の補正の内容は、商標法第五六条第一項の規定によつて準用される特許法第一三一条第二項の規定にいう「その要旨を変更するもの」に該当し、同法第一三三条の規定によりその補正を命ずることができないと解される。

そうすると、本件審判の請求は、右手続補正書の補正の内容に基づいて、商標法第五六条第一項の規定によつて準用される特許法第一三五条の規定に定める「不適法な審判の請求であつて、その補正をすることができないもの」に該当すると解される。

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